はじめまして。

「雀雀舎」と書いて「しゃんしゃんしゃ」と読みます。


突然私事で恐縮ですが、私は幼い頃から握力が非常に弱いものでカスタネットを片手だけで鳴らすことが出来ないのです。


両手にカスタネットを1つずつ持ちただ眺め、鳴らしたいのに鳴らせない日々を過ごしました。

明るいのか暗いのかもよく分からないような霧が立ちこめる空間の真ん中で、前を向いているのか後ろを向いているのかよく分からないまま立っている感覚でした。


それは永遠に続くものかと思われましたが、ある日突然変化が訪れたのです。


いつものように両手にカスタネットを1つずつ持っていると、かすかに聴こえたのです。

聴こえるはずのないカスタネットの音が。

初めて聴く音だったものですから、それがカスタネットの音だとは気付きませんでした。

ですが、再び音が鳴った後にようやくこれがカスタネットの音だと分かりました。


なぜカスタネットが鳴ったのだろうと不思議そうにしていると、隣でくすっと笑う声がしました。

その人は私の右隣にいて、右手のカスタネットの上にそっと手を置いていました。

そしてもう一度カチッとカスタネットを鳴らし、またくすっと笑いました。

私もつられてくすっと笑いました。


すると左側からもカチッと音がしました。

左隣に、私の左手にあるカスタネットを鳴らした人がいました。

そしてその人もくすっと笑いました。


両隣にいる人たちは楽しそうにカチッカチッと私の両手にあるカスタネットを鳴らしました。

今まで鳴ったことのない右手のカスタネットと左手のカスタネットが、嬉しそうにくすくす笑っているようでした。

その時に聴いたカスタネットの音が、どんなメロディの音楽よりも好きになりました。


心の中に立ちこめていた霧はいつの間にか消えていました。

いつまでもこの時間が永遠に続けばいいのにと思いました。


右隣でカスタネットを鳴らしている人を「右タネット」と呼ぶことにしました。

左隣でカスタネットを鳴らしている人を「左タネット」と呼ぶことにしました。


それから右タネットと左タネットと仲良くなりました。

よく一緒にカスタネットの話をしました。


そして3年後、右タネットと左タネットはとうとうカスタネットに飽きてしまいました。

もはや「右タネット」と「左タネット」は、ただの「右」と「左」です。


2人は形が可愛いからという理由で鈴を鳴らしはじめました。

幼稚園児が持っているような鈴で、輪っかのまわりに小さな鈴がいくつか付いているものです。


それから毎日シャンシャンと鈴の音が鳴りました。

私のカスタネットは鳴りませんでした。


右と左はこれからもずっと鈴をシャンシャン鳴らしたいねとくすくす笑っていました。

それが雀雀舎(しゃんしゃんしゃ)のはじまりです。







ごちゅうい

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