よし!今日から社会人だ!
がんばるぞ!
おい
おい、そこのキミ
え?
ボクですか?
そうだキミだよ
私はキミの教育係を任された神崎だ
よろしくお願いします!
ボクは国木です
よろしく
自己紹介は面倒だから
早速なにか分からないこととか
不安なことがあったら
話してくれ
そうですね……
立派な社会人になるにはどうすればいいですか?
ちなみに趣味はアジを開くことです
自己紹介はしなくていいって言ったのに
キミってやつは……
しかもアジを開くって……
私と一緒じゃないか
神崎さんと同じって
なんだか嬉しいです
キミってやつは……
立派な社会人になるにはか…
まず挨拶をちゃんとするようにしなさい
分かりました!
挨拶ですね!
じゃあ練習してみようか
朝、出社したところで私と出会ったとしよう
はい!
おはようございます!
…………………………
っ…………………………!
あぁ
社会人の中には挨拶しても
何も返してこない人がいるからね
初めに無視される体験をしておいた方が
後々良いと思ってね
もう、神崎さんったら
他にはあるか?
魅力的な社会人になるにはどうすればいいですか?
今のキミ自身を忘れないようにしなさい
今のボク自身…ですか?
そうだ
社会人をやっているとね
仕事のルーティンに飲み込まれて
自分の好きなことや本当にしたいことを忘れてしまうんだ
大事なことを……
忘れてしまう……
そしてついには自分の本当の名さえ思い出せなくなるのさ
そ、そんなことが……
キミはこの会社に入るとき
契約書に名前を書いただろう
そのとき何か言われなかったか
「今日からお前の名は国木……」
……っ!
てことは、国木は本当の名ではないんですか!?
今ならまだ間に合う
さぁ、これを見なさい
会社に見つからないようにこっそり持っておいたものだ
これは大学の友達が
新しい会社に早く馴染めるようにと書いてくれた手紙……
国木田……国木田 治!
ボクの名だ!
忘れかけてた!
それをなくさないように大事にしまっておきなさい
本当の名を捕られてしまってはいけないよ
私のように……
…………!
神崎さんは自分の名を思い出せないんですか?
あぁ
ずいぶんと前からだ
もう元の世界には戻れなくなってしまったのさ
私は会社で生きていくしかないんだよ
そんな……
まぁ気を取り直して、仕事を始めようか
はい……
初日から雑用で悪いがいいか?
もちろんです!
なんでもやります!
それはよかった
じゃあそこの書類の山をスキャンして
すべてデータ化してくれ
わかりました
よいしょ……わぁっ!!
国木君!?大丈夫か?
書類の山に埋もれて溺れているようだったぞ
あ、ありがとうございます!
そうですね、書類の山に溺れて……
はっ!
前にもこんなことがあった……
ん?
ボクが幼い頃、川で溺れたことがあると親から聞きました
そのとき助けてくれたのは見知らぬ男性で……
やっと今思い出しました
助けてくれたのは神崎さん、あなただったのですね!
はっ!
ボクたちはここに来る前から出会っていたんだ
そしてあなたの名は神崎川……!
私も思い出したよ
キミはあのときの少年だったのか
私の名は神崎川……神崎川 聡
よかった
これで神崎川さんはこの会社から解放されますね!
そうだな……
でももう元の世界に戻れないんだ
仕事に没頭するあまり、家庭という帰る場所をなくしてしまったから
そんな……
でもこうしてキミと出会って大事なことを思い出せた
ありがとう
神崎川さんは本当の名を取り戻せたんだ!
いつかきっと戻る場所も取り戻せますよ!
国木君……
神崎川さん!
ボクは神崎川さんにずっとついていきます!
キミってやつは……
だが、会社で本当の名を呼ぶのはまずいぞ
私は神崎だ
あっ
そうですね!
はははっ
はははっ
これはボクの社会人1日目の話。
神崎川さんと出会ったことで大事なことを学んだ。
これからが本番なんだ。
眠る前にそう思った。
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