神崎さん!
おはようございます!
おはよう。
国木君。
そろそろこの会社に入社して1ヶ月経つな。
慣れてきたか?
はい!
ずいぶん慣れてきました。
それもこれも神崎さんのおかげです。
そうか。
それはよかった。
そういえば、連休明けに新人の組み分けがあると聞いたのですが、
どういったものなのでしょうか。
あぁ、まだ教えてなかったな。
ざっくり言うと社内の新人を4つの組に分けて競わせるんだ。
単に売り上げを競わせるだけではなく、
日頃の仕事への姿勢も評価に入る。
1年間で1番ポイントを獲得した組には特別賞与が与えられるんだ。
なるほど。
チームワークと競争心を養うんですね。
うむ。
特に最近の若い子は個人の自由だとか抜かしおって、協調性がまるでないからな。
その上、無欲で野心が無いときた。
そこで新人の組み分けは良い刺激になるんだ。
その組み分けはどうやって行うんですか?
この1ヶ月の新人に関する情報を分析して、それぞれの性質をAIが4つに分類するのさ。
同じ性質を持った者同士が同じ組になる。
まず1つ目は「ライオン組」
性質は勇猛果敢な騎士道を重んじ、情熱を秘めている。
ライオン組からは毎年優秀な社員が育っている。
2つ目は「アナグマ組」
性質は誠実で心優しく、忍耐強い。
アナグマ組に組み分けされた者は今のところ、不正を行ったり人間関係でトラブルがあったりといった事が起きていない。
3つ目は「カラス組」
性質はとにかく賢い。
カラス組の者は頭が良すぎて扱いにくいな。
変にプライド高いしな。
4つ目「ヘビ組」
性質は狡猾で抜け目無い。
どんな手を使っても勝ちに行くのがヘビ組の特徴だ。
……と、まぁこんなところだ。
あれだな、どうぶつ占いみたいなものだな。
なんだかヘビ組は嫌です……
そうか?
ヘビ組はなかなか優秀な者も多いぞ。
一度試しに組み分けやってみるか?
本番でも同じ結果になるとは限らんが試しにな。
いいんですか!?
ぜひお願いします!
それじゃあ組み分けAI起動。
……………………
……………………
(ヘビ組は嫌だ。ヘビ組は嫌だ。ヘビ組は嫌だ。ヘビ組は嫌だ)
……うーん。
迷ってるようだな。
迷うなんてことあるんですか?
いやぁこんなの見たことないな。
どうやらライオン組とヘビ組とで迷っているようだ。
……お前、ヘビ組は嫌だとか念じてないか?
………………はっ!
やっぱりそうか。
その強い思いがAIの判断を鈍らせているんだ。
そ、そんなことが……!?
AIは人間の脳の構造を元に作られているからな。
そんなことがあっても不思議ではないよ。
なぜそんなにヘビ組が嫌なんだ?
あの……名前を言ってはいけない大汚職社員もヘビ組だったと聞いたもので。
そうか……そうだったな。
………ふっ
君の思いはAIに届いたみたいだよ。
結果はライオン組だ。
やったぁっ!!
本番でも同じ結果になるといいな。
はい!
本番でも思いっきり念じます!
自分の意志で決める……か。
今までそんなヤツいなかったかもな。
結果を他人に委ねるのではなく、自ら決める事が大事。
それをAIは分かっていたのかもしれんな。
なんだかAIなんて呼び捨てみたいに出来ないですね。
アイさん……固いなぁ。
じゃあアイちゃん……
いや、アイたんって呼んじゃおうかなっ!
ははっ
……ふ、ふははっ。
キミってやつは……
あれ?
神崎さん、どうかしましたか?
いや、何でもないぞ。
そろそろ仕事に戻るか。
……はい。
あれっ、変だな。
僕のPCがさっきから社内LANに繋がらないです。
そうか、時間をおけば繋がるかもしれんな。
まぁ今は私のPCを使うと良い。
しばらくは他の作業があって使わんからな。
ありがとうございます!
助かります!
神崎さんのPC、すごく整理されている。
さすがだな。
……ん?
ドキュメントフォルダのさらに奥に何かある……
秘密の…部屋……?
「秘密の部屋.exe」ってなんだ?
でも……神崎さんのPCを勝手に探っちゃいけないよな。
……でもでも気になるッ!
くっ……パスワードがかかっているだと。
んー、パスワードなんだ?
神崎さんの誕生日……ちがう。
神崎さん家の郵便番号……それとも番地……ちがう。
神崎さんの好きな食べ物……ちがう。
神崎さんの推しの名前……誕生日……ちがう。
ん?そういえばさっき神崎さんが少し動揺していたとき……
僕が何て言ったときだっけ?
アイたん……って、ははっ関係あるか?
…………当たりだ。
なんだ?この画面は?
く、国木君っ!!
何をしている!?
わぁっ!!
すみません神崎さん!
つ、つい好奇心で……開いちゃいました。
何ですか?これは。
異常にはだけた男の子のイラストが……
アイたん……
アイたんだよぉっ!ばかやろう!
気持ち悪いか?
気持ち悪いと思うなら正直にそう言え!
気持ち悪いなんて思ってません!
ただ……前に教えてくれた推しと違うじゃないですか!!
僕には正直に話してくれると思ってたのに……
くっ…………すまなかった。
本当の事を話せば君が引いてしまうのではないかと思ってな。
でも、前に言った推しもちゃんと好きだぞ。
僕の事を気遣って嘘をついたんですね……
僕に嫌われたくないから……
仕方ないですね。
今回は許してあげますよ!
はははっ
キミってやつは。
はははっ
後で神崎さんから聞いた話によると「美少年アイたん」はシステム開発部に神崎さん自らが札束を握らせて開発させた、人工知能育成ソフトらしい。
言葉や行動などを覚えさせていくことで、自分好みの少年に育つようだ。
試しにアイたんに話しかけてみると、完璧に会話が成立して驚いた。
その異常にはだけた少年はとても可愛らしく、あやうさと妖艶さをまとっていた。
アイたんが男であるということが尚更そう感じさせたのかもしれない。
僕は気付けばアイたんから目を離せなくなっていた。
どうやら、僕の「秘密の部屋」の扉も開いてしまったようだ…………
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